2003年9月1日月曜日

文明の衝突!?(1)冷戦後の国際政治の行末 2003.9.X 初出

98~2002年、つまり世紀の変わり目頃
ハーヴァード大学の国際政治学教授
サミュエル・ハンチントンが書いた
文明の衝突、という本がよく売れていました。
これは東西冷戦終了後の世界は
世界各地の文明が衝突するようになるだろう、と
予測した本です。
冷戦後の世界を予測する上で大変重要な本だと
いう触れ込みで、学術系の本としては
当時信じられない規模のベストセラーとなりました。

そう、世紀の変わり目のベストセラー。
あれは確か2000年の夏でした。
当時まだ若く、少年のように好奇心旺盛だった僕は
よせばいいのに、文明の衝突、を
仙台駅前のJUNK堂書店で購入してしまった事を
覚えています。
世界を動かす知性が集うハーヴァード大学の教授が
書いた本を読んでみたい。若さゆえです。
とても青臭い。青い春、それが青春。

で、買ってしまったからには、と気合を入れて読んでみると、
そんなに難しいことは書いていなくて
ハーヴァード大学国際政治学教授、という重々しい
肩書きに騙されてはいけないのだな、と
若き僕は学んだものでした。

文明の衝突、という本が当時どうしてそんなに
売れたのだろう、と考えてみると
98~2002年の世紀の変わり目において
世界は明日を占うことができない状態で
みんなポーッとしている状態だった、という事情が
あったのだと思います。
明日を占うことができない時、人々が
正確な情報を欲しがるのは自然の流れです。

98~2002年。あの頃の雰囲気を僕は
まだよく覚えています。
歴史の大枠では、20世紀後半を通して激しく行われた
資本主義陣営と共産主義陣営の闘い、
もっと言えばアメリカ合衆国とソビエト連邦の闘いが
ソビエト連邦の崩壊、という形で幕となってから10年が経ち、
世界は資本主義体制の完全な勝利の下
市場を通した世界市民形成へと向かっていくの
だろうか、という時期でした。
アメリカ合衆国のクリントン政権が進める
経済のグローバル化は実際そういった流れに
向かっているように思えたし、僕にもそう見えた。
TVではアメリカやヨーロッパで活躍する日本人の姿が
紹介され始め、感度のいい人達はみんな、何かが変わり始めているな、と
期待と不安に胸を高鳴らせていた。
サミュエル・ハンチントン教授が、文明の衝突、を発表する少し前に、
フランシス・フクヤマという人が
歴史の終焉、という論文を発表して話題になっていましたが、
それはクリントンラインの本だったように思います。
文字通り、歴史の終焉。つまりソビエト連邦の崩壊で
人類のイデオロギー対立の歴史は終焉し、
後は民主主義と市場経済がグローバルに
展開し世界市民形成へ向かっていくだろう、というもの。

冷戦後の世界は、サミュエル・ハンチントンの、文明の衝突、か、
フランシス・フクヤマの、歴史の終焉、か、
僕が青春真っ盛りの、20世紀から21世紀への世紀の変わり目は、
ずばり、そんな雰囲気でした。

で、2003年現在の状況を見ると
ハンチントン教授の、文明の衝突、が
結果として正しかったという事になりそうです。
アメリカのブッシュ大統領は、イスラム世界に対して
聖書にもとずいた聖戦を謳っていますし
イスラム世界は逆にアメリカ、イギリスに対して
これまた聖戦(ジハード)を謳い上げています。
まるでキリスト教十字軍遠征の時代に戻ってしまった感があります。
まさに文明の衝突。
しかも兵器の性能は十字軍の時代より何万倍も
上がっているのだから目をあてられません。
これは、文明の衝突、でも、歴史の終焉、でもなく
実は、人類の終焉、なのではないか、などと
心配性の僕などは思ってしまいます。まさにハルマゲドン!!

ちなみに予想があたったハンチントンさんは
現在鼻高々のようです。
対して予想が外れたフランシス・フクヤマさんは
ブーたれているご様子。学者先生も所詮人間です。

で、簡単に言うと、現在国際政治の世界では、
文明の衝突、が起きているわけです。
自由と民主主義を市場経済を通してグローバルに
普遍化していくというラインの限界が見えてきてしまったわけです。
世界はなんだかんだ言って、文明の衝突、なのだ、と。

クリントンが握手させたイスラエルとパレスチナでは
またドンパチが始まってしまったようですし
韓国では、アメリカよりも北朝鮮の方が好きだ、
という人が増えているらしい、なんて話もあります。
日本国内でも、日本人はもっとニッポンを知ろう、
みたいなソフトなものも含めて、日本民族万歳的な言論が増えてきました。
実は僕も例外ではなくて、ここ2.3年、日本文化というものを
真面目に考え直すようになってきています。
そういったムーブメントは、20世紀後半を通じて
ずっとあった、東西冷戦、という大きな緊張状態から
解放された、という事とやはり関係があるのだと思います。

東西冷戦下では、みんな怖くて仕方ないので
とりあえずソビエト連邦かアメリカ合衆国に
守ってもらうしかなかったわけですが
その必要性がなくなってしまったために
自分達の民族性に目覚めてきた、という事なのでしょう。
本来世界中のどの民族も
エスノセントリック(自民族中心主義)的である、と言われています。
どんな民族でも、自分達の文化文明に
微かな誇りを持っているわけです。
そう考えると冷戦終結後、世界が、文明の衝突、に向かっているのは、
ある種必然なのかもしれません。

例えは適切ではないかもしれませんが
東西冷戦というのは、町の東西で
大きなヤ○ザ組織二つが睨み合っている事で
とりあえずの治安が守られていた、という状況だったと
言えるのかもしれません。
それは本当の平和ではなかった、と。



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