2003年10月1日水曜日

太陽が燃えている 2003.10.X 初出

日本が屈辱の敗戦から不死鳥のように
起ちあがり、戦後復興から高度成長へと
向かっていた1970年に開催された
日本万国博覧会。

僕はまだ生まれていませんが
それはきっと韓国におけるソウルオリンピックや
中国にとっての今度の北京オリンピックのような
国際社会に対して、近代化、先進国家の仲間入りを
宣言できる一大イベントだったのだと思います。
1960年代から70年代を、日本の青春時代、などと
言う人もいます。
じゃあ日本はもう、中年時代、なのだろうか。
腹は出てくるし、髪は薄くなってくるし……ああ、やだやだ。

で、その日本万国博覧会に、岡本太郎という芸術家は
太陽の塔、というモニュメントを出品しました。
岡本太郎さんは、日本の近代化・先進国家の仲間入りの
一大イベントに対して、思いっきり非近代的で
思いっきり原始的な、太陽の塔、を出品したのであります。
とても挑戦的なアプローチですし
無謀とも言える行為です。
万国博当時、太陽の塔、は、何を意味しているのか
さっぱり分からない、目障りだ、と酷評されたそうです。
さすがに、芸術は爆発だ、の名言で知られる
岡本太郎さんであります。
まさに、太陽の塔、は爆発しています。

岡本太郎さんの母親は、岡本かの子、という
結構有名な文学者で、太郎さん自身
このエッセイで度々登場する、死霊、を書いた
埴谷雄高氏らと共に、夜の会、を結成してみたり、と
かなり文学的な人でもあったようです。

その岡本太郎さんの、太陽の塔、に対する弁。

日本中が、進歩、GNPに自信満々の時代だった
そこへ、万国博。
恐らく全体が進歩主義、モダニズム一色に
なることは目に見えていた。
そこで私は逆に時空を超えた、絶対感。
馬鹿みたいに、ただどかんと突っ立った
「太陽の塔」を作ったのだ。
現代の惰性への激しい挑みの象徴として。

<岡本太郎、歓喜、P116、二玄社>

つまり岡本太郎さんは、万国博で日本中が
モダニズム(近代主義)一色に染まるのを
予想して、そのアンチテーゼとして
思いっきり非近代的で原始的な、太陽の塔、を
出品したわけです。

で、その岡本太郎さんの1970年の挑戦を
今にして振り返ってみると、その試みは
確かに的を得たものだったと分かります。

高度成長以後、つまり日本が近代先進国家の
仲間入りを果たしてから生まれた僕は
ずっと進歩・科学・都市が素晴らしいと思い
土臭い田舎を馬鹿にし、太陽を見上げることなんて
一度もありませんでした。

でもこのエッセイで、色々と現代社会の問題を
考えてきてみて、太陽や、神道の天照大神にまで
考えが及ぶようになってみると
日本の近代化・先進国家の仲間入りの
一大イベントである万国博覧会において
思いっきり非近代的で
思いっきり原始的な、太陽の塔、を出品した
岡本太郎さんのアプローチがいかに
偉大だったか分かります。

日本社会が近代化・都市化で
なくしたものは、太陽、なのではないか、とさえ
最近思います。

人間どもが地上でいくら近代化だ
都市化だ、とセコセコしていたところで
太陽はいつの時代も確実に燃えているのです。
ギラギラと燃えているのです。
そしてその光なくして、全ての地球上の
有機物の活動はなりたたないのであります。
近代化・都市化は、そういった基本的な事実を
忘れさせてしまいます。
僕がこうして文章を書いている時も
太陽はギラギラと燃えているのです。
病める時も苦しい時も貧しい時も
太陽は燃えている。ギラギラと燃えている。

朝の光が待てなくて、眠れない夜もあった。
朝の光が待てなくて、間違った事もやった。
僕が生まれたところが、世界の片隅なのか。
誰の上にだって、お日様は昇るんだ。

1985年デビューのブルーハーツも
そう歌っていました。

やはり日本社会が近代化・都市化でなくしたものは
太陽、なのかもしれません。

太陽は燃えている。
ギラギラと燃えている。
光あれ。

故岡本太郎氏のご冥福を
心よりお祈り申し上げます。

芸術は爆発であります。

と、書いてきたところで
ちょうど太陽に関するニュースが
飛び込んできたのであります。
今週の日経新聞(電子版)によりますと
太陽表面で28日、フレアと呼ばれる
大規模な爆発現象が発生、地球が激しい磁気嵐に
見舞われる可能性があると、米海洋大気局
(NOAA)が警告した~そうです。

太陽で爆発現象が起きている。
故岡本太郎氏の仕業なのだろうか……んなわけないか。

今回は、北米の一部で停電などを引き起こした
1989年の大規模なフレアより規模が大きく
過去30年で最大の可能性もあるとのことです。
磁気嵐は、29日から30日にかけて、地球に到達。
航空機などの通信や放送の障害、電子機器の
誤作動・停電などを招くこともある、との事。

みなさん気をつけて下さい。




-太陽が燃えている-
歓喜 (Art & words)