2007年6月1日金曜日

憲法論議―広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スベシ 2007.6.X

一年程前に、小室直樹氏の「日本人のための憲法原論」(集英社インターナショナル)という本を読んでからずっと気になっていた人物がいました。戦前の憲法学における第一人者で、最後の枢密院議長を務め、戦後は幣原内閣が作った憲法問題調査会の顧問となり最後まで新憲法に反対し続けた清水澄(とおる)博士です。博士は、反対し続けた新憲法が施行された昭和22年9月25日に、熱海の錦ヶ浦で「我自決し国体を守らん」との遺書を残し自決されたとの事。僕は、ずっとその清水澄博士の存在が気になっていたのです。「我自決し、平和憲法を守らん」などという憲法学者が、果たして現代日本にいるだろうか……などとも。

清水澄博士の自死から23年後の昭和45年(1970年)に、僕がどうしようもなく惹きつけられている作家、三島由紀夫が、自衛隊の基地で、憲法に体をぶつけて死ぬ奴はないのか……云々と、アジ演説を行ってから割腹自殺を遂げましたが、もはや伝説ともなった三島のあの勇姿と、清水博士の自死のイメージとがオーバーラップしたからかもしれません。僕は小室直樹氏の「日本人のための憲法原論」を読んでから、清水博士の事をずっと気にかけていたのです。

気にかけている、言わばアンテナを張っていると、故人と言えども出会いはあるもので、
先日、その清水澄博士の学統を継ぐという南出喜久治氏と、愛国派の知の巨人である渡部昇一氏との対談本を書店で見かけたのでした。
日本国憲法無効宣言―改憲・護憲派の諸君!この事実を直視せよ





戦後も戦後、70年代生まれの僕にとっては大変ショッキングなタイトルで、思わず目を見張りました。日本国憲法無効宣言! もちろん迷わず購入です。
帯には「今こそ憲法改正阻止の一大国民運動を起こせ!! 」とあり、サブタイトルには「改憲・護憲派の諸君! この事実を直視せよ」とありましたが、僕は初め、その意味するところが全くつかめませんでした。僕は、愛国保守派の論客である渡部昇一氏は、てっきり改憲論者だと先入観で決め付けてしまっていたので度肝を抜かれたのです。

本を最後まで読んでみれば、そのサブタイトルや帯の文句も納得なのですが「憲法改正阻止! 」と聞くと、パブロフの犬的に「護憲派」を連想してしまう、という時点で、いかに僕の頭が戦後の文化催眠にどっぷりとつかっていたことかと実感させられて、苦笑させられました。ちなみにこの「日本国憲法無効宣言」は、出版たちまち増刷出来で、よく売れているようです。

で、この「日本国憲法無効宣言」を読んでみて、流石に渡部昇一氏の指摘は鋭いな、と感心させられたのは、日本国憲法公布の勅語の冒頭文「この憲法は、帝国憲法を全面的に改正したものであって、国家再建の基礎を人類普遍の原理に求め、自由に表明された国民の総意によって確定されたものである」という部分で、天皇陛下が嘘を吐かされているのだ、という指摘です。(同書、37ページ)

そう言われてみれば確かにそうで、GHQによる、戦前の日本よりも悪質で巧妙な検閲、いわゆるプレスコードの中、中西輝政京都大学大学院教授が、日本人としてこれだけは知っておきたいこと(PHP新書)の88ページで述べられていた、侵略戦争非難宣伝計画(ウォーギルド・インフォーメーション・プログラム)が実施され、日本人への戦争犯罪意識の刷り込みが行われ、戦前の指導者層がおおかた公職追放にあっているという状態で、新憲法、日本国憲法が「自由に表明された国民の総意によって確定されたものである」というのは、少々、というか、かなり無理があるのではないだろうか。
そもそもGHQによる検閲、プレスコード下で制定された憲法に「第二一条二項、検閲は、これをしてはならない」などと書いてあるこの大いなる矛盾! なんか変だな……と素人目に思ってしまいます。

大変だ! 真実が、イカサマと手を組んだ!
誰か僕に約束の守り方教えてよ……

ヘリコプターに驚いた
お天気の神様が
さようならも言わないで
黒い雨降らせてる

シャラランラ……シャラランラ

見上げてごらん
風に乗った女神様
誕生日もわからない
白髪のおばあさん

ちからコブもつくれない
あなたのちからでは
プロレスラーも倒せない
世界平和
守れない

あー奇跡を待つか
あー叫ぶのか

あー全ての罪は
あーみんなで分けましょう
みんなで分けましょう!

シャラランラ……シャラランラ

By ブルーハーツ シャララより

閑話休題。
たまに歌ってしまうという悪い癖が出てしまいましたが
僕自身は、憲法改正、改正阻止、護憲、無効論……等の中で態度を決めかねています。
現時点で立場を明確にできている人は、常日頃から自分の世界観を磨き上げている見識のある方だと思います。
時間ができたら太田光氏と中沢新一氏の対談によるベストセラー「憲法9条を世界遺産に」(集英社新書)などにも目を通して見識を深めてみたいと考えておりますが、今のところ僕は憲法論議に関する態度は保留です。

ついでに言えば、憲法の問題は戦争の放棄を定めた、第二章第九条だけではないように思います。今回「日本国憲法無効宣言」の附録で、日本国憲法を何年かぶりに読んでみたのですが、いかに近代国家、怪物、リバイアサン、バカ野郎の暴走を抑えるための憲法とはいえ、明治憲法に比してずいぶんと個人主義の徹底された、また、あまりに宗教色のない憲法だなという事に思い至りました。王様のいない共和国の憲法のようだなとさえも。

いずれにせよ、憲法論議が盛り上がり、真に「自由に表明された国民の総意によって確定されたものである」という新憲法が出来ればいいな……と言ったら、あまりに理想論に過ぎるでしょうか。

社会保険庁による5000万件にものぼる帰属不明の年金記録問題などで、憲法改正を目指す安倍内閣がピンチを迎えているようですが、この夏の参院選でどういった結果が出て、どう政局が動くにせよ、安倍政権が、戦後レジーム脱却を打ち出し、憲法改正を唱えた事で、国の根幹である、憲法、にスポットライトがあたるようになった事は、大変喜ばしい事だと僕は思います。

護憲派を、太田死ね! とか、中沢尊氏! などと中傷したり
逆に保守派を、ノスタル爺、などと揶揄したりする低次元の下品な争いは止めて
右も左も公明正大にワイワイとやっていれば、次第に煮詰まってきて
いい感じになっていくのではないでしょうか。

広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スベシ――五箇条のご誓文より


―憲法論議―広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スベシ(完)―

日本人のための憲法原論

日本国憲法無効宣言―改憲・護憲派の諸君!この事実を直視せよ

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

日本人としてこれだけは知っておきたいこと (PHP新書)

三島由紀夫が復活する

君には聞こえるか三島由紀夫の絶叫 (1982年)

文化防衛論 (ちくま文庫)

「三島由紀夫」とはなにものだったのか (新潮文庫)

源泉の感情 (河出文庫)

三島由紀夫おぼえがき (中公文庫)

火群のゆくへ―元楯の会会員たちの心の軌跡 (柏艪舎ネプチューンシリーズ)

三島由紀夫が死んだ日 あの日何が終わり 何が始まったのか

続・三島由紀夫が死んだ日 あの日の記憶は何故いまも生々しいのか

村上春樹の隣には三島由紀夫がいつもいる。 (PHP新書)