2003年12月1日月曜日

卵のなかみ150回記念・2003年死語辞典(5) 2003.12.X 初出

・戦後最悪

98~2002年頃は、あらゆる分野で
戦後最悪、という言葉を耳にしましたが
最近聞かなくなりました。
どうやら現在起きている変化は
戦後社会の続きではなくて
もうその戦後日本システム自体の
構造変化なのだ、というコンセンサスが
社会に出来たからなのだと思ってしまいます。

戦後社会においては、好景気も不景気も
循環によるもので、だいたいパターンは
同じだったのです。
多少の景気の波はあっても、長くみれば
右肩上がりに向かっていたわけです。
だから株式も少々上がったり下がったりが
あっても、長くもっておけばたいてい上昇したわけです。
それが、常識、でした。
土地もそうでした。そしてそれが、土地神話、となってしまい
バブルが起きてしまったわけです。
そもそも人類が誕生するずっと以前から
土地、はあったわけです。というか、土地、ではなくて、地球。

旧約聖書では、神様が天地創造の三日目に
天の下の水は一つ所に集まれ
乾いた所が現れよ
と言われてそうなったので
神様は乾いた所を、地、と呼び
水の集まったところを、海、と呼んだ、としています。

何を言いたいのか、と言いますと
人類が、その、地、に値段を付けて
売買し、土地神話、を作ってしまったのは
おかしいな、という事です。
やはり、バブル、だったのです。
人間のやる事に、神話、は、ありえないと思います。
だって人間だもの。
神話は神様のものです。

神がかった話に抵抗のある方でも
白亜紀には、地球の王者は恐竜だった、という事を考えれば、
土地神話、の愚かさを、理解していただけるかと思います。
白亜紀の恐竜さんから見たら
地球の表面に値段を付けて
売買している、人類、という種は異常でしょう。

今日人類が始めて
木星についたよ
ピテカントロプスになる日も
近づいたんだよ。
猿にはなりたくない
猿にはなりたくない
壊れた磁石を砂浜で
拾っているだけさ。
今日人類が始めて
木星についたよ
ピテカントロプスになる日も
近づいたんだよ。
猿になるよ、猿になるよ。

バブル崩壊前夜に流行した、たま、というバンドの
さよなら人類、という曲の一節です。
地球の表面に値段をつけて売買する事の
阿保らしさを自覚しつつ
あまり熱くなりすぎない程度に
経済活動にいそしむのがよいかと思って
しまいます。
そうでないと、猿、になってしまいます。
猿にはなりたくない。猿にはなりたくない。

少々話が逸れてしまいましたが
現在起きている変化は、バブルの狂乱で
幕を閉じた戦後システムの景気循環パターンの
続きではないらしい、という認識が広がってきたので
戦後最悪、という言葉を聞かなくなったのだろう、という話なのです。

経済学では、景気循環のパターンを
約40ヶ月ごとにくるキチンの波(在庫調整局面)
約10年でくるジュグラーの波(設備投資調整局面)
約20年でくるクズネッツの波(建築物循環局面)
約50年周期でくるコンドラチェフの波(技術革新を伴う
大循環局面)があると教えているようですが
戦後最悪、という言葉を聞かなくなったという事は
現在日本経済は、コンドラチェフの波、つまり
50年に一度くる、技術革新を伴う大循環局面に
きているのかもしれません。
技術革新の象徴は、もちろんIT技術です。

パソコンなんかなくなりゃいいんだ、という
ガッツ石松さんのTVCMがありましたが
実際パソコンを中心としたデジタル機器の技術革新は
すさまじいもので、先日も大手スーパーが
IT技術を駆使した無人レジ方式を採用する、というニュースがありました。
つまりIT技術は、中間管理職を排除したり
中間業者を排除したり、人間のジョブを奪ったりする面があるわけです。
10年後20年後には、そのIT技術を駆使した
思いもしない新産業が出てきて
雇用を生み出すと思うのですが
かつての産業革命においても
当初の数十年間は、それまでの仕事を
機械に置き換えていくだけでした。
詳しくは、僕著、サイバーレボリューション、を
ご参照下さい。
産業革命時におきたラダイト運動(機械打ちこわし運動)が
起きない事を願いたいところであります。
パソコンなんかなくなりゃいいんだ、と思っている
中高年の方はかなり多いと思います。

約50年周期で来る技術革新を伴った
大循環局面、コンドラチェフの波、が来ているのではないか、と
僕は思ったのですが、どうでしょう。
そうだとすると、戦後日本の経済システム、とは
全く違った世の中になってしまうわけです。
だからもう、戦後最悪、という形での
過去との比較はもうできないような気がします。
だから、戦後最悪、も死語でしょう。
大変な時代に生まれてしまったものです。

バブルの頃は、平均株価が三万円ともなれば
日本人みんなにパイの分け前が行き渡ったので
平均株価が上昇すれば
日本人みんなが一緒に豊かになれるのだ、という
幻想がまだ支配的ですが、その、常識、も
壊れつつあります。

現在の株価の回復は
大手企業による人員削減によるものだと
言われています。
ジョブレスリカバリー(雇用なき景気回復)と
言ったりしますが
人間を失業させて企業業績が回復し
株価が回復してしまう。

平均株価が上昇したから
庶民にもそのパイの分け前があるのかな、と
思ってしまいますが、生活実感としてはそうではありません。
むしろ悪くなっています。

カール・マルクスならこれを、疎外、と言ったのかも
しれませんが、僕はマルキストではないし
マルクスの著作をちゃんと読んだ事もないので
よく分かりません。
でも、ジョブレスリカバリー(雇用なき景気回復)と
いうのは、おかしいと思ってしまいます。
多くの人もそう感じると思うのですが
どうでしょう。ジョブレスリカバリー(雇用なき景気回復)

もしかしたら、単に、戦後の日本システムが
日本企業同士で、株式の持ち合い、をやっていたので
平均株価が上昇すれば、日本人みんなが一緒に豊かになれるのだ、
という幻想ができてしまっていたのかもしれません。
ちょっと考えたくありませんが
平均株価が上昇したからといって
日本人全てにパイの分け前があるわけではない、と
なってしまうのかもしれません。

本当にこれからどうなってしまうのだろう、と
思ってしまいますが、とりあえず、戦後最悪、は
死語でしょう。


-2003年死語辞典(6)へ続く-
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