2003年9月1日月曜日

言葉屋詩人のりさん 2003.9.X 初出

あなたを見てインスピレーションで
言葉を書きます。

そんなコンセプトを掲げて
ストリートで詩を書き続けている
知る人ぞ知る有名人、言葉屋詩人のりさんが
今仙台に来ている。

僕は典(のり)さんとは、仙台のアーケードで
三回ほど会っている。

二年前程前、初めて典さんをアーケードで見かけた時
典さんは、寒い仙台のストリートで
小さくなって震えていた。
たぶんあれは冬だったのだ。
典さんは、地べたに自分の書いた詩を
並べて座っていた。
気の弱い僕は、典さんの前を二度三度と
行ったり来たりしてから
勇気を振りしぼって話しかけてみたのを覚えている。
ヒッチハイクの話なんかで盛り上がったけれど
お互いまだ、何かを始めたばかりの鼻たれ小僧だった。
何かをやろうとするあなたに
この詩集を買って欲しい、と
典さんに熱く勧められたのに
その日僕は典さんの詩集を
買わなかったのを覚えている。
こうして書いてみると、僕は結構ヒドイ奴だな、と
思う。

二回目に典さんをアーケードで見かけた時
僕は忙しかった事と、自分の事で頭が一杯だった事も
あって話しかけなかったのを覚えている。
正直、まだやっているな、という感じで
地べたに座って詩を書いている典さんを見ていた。
こうして書いてみると、やっぱり僕は結構
ヒドイ奴だな、と思う。

で、三回目となる今回の典さん。
アーケードを歩いていて典さんを見かけた時
僕は典さんの雰囲気が、以前と変わっているのに
気がついた。
表情が全く違っていて
凛として、とてもたくましく見えた。
初めて会った時とは、別人のようになっていた。
たぶん経験によって培われた自信なのだ、と
僕は思った。継続は力なりです。
気の弱い僕は、二年前と同じく
典さんの前を、二度三度と行ったり来たりしてから
勇気を振りしぼって話しかけてみた。

前も仙台にいらしてましたよね、と、僕。

ええ、もう仙台に来ると、お帰り、と言われんです、と
テレながら頭を掻く典さん。

そんなちょっとした仕草も、二年前とは
明らかに違う。

あなたを見てインスピレーションで言葉を書きます。

そんな大きな文字を僕は目にした。
おうよ、書いてもらおうじゃないか、と、僕は思った。

おうよ、一つ頼むよ典さん、と、僕。

おうよ、そこに座りなよ、と、典さん。

おうよ、と、地べたに広げられた座布団に座る僕。

おうよ、と、筆を手に取る典さん。

おう……よよよ。

僕は怖くなった。
僕が地べたに広げられた座布団に腰を下ろして
顔を上げたその刹那、目の前に典さんの凄まじく
鋭い眼差しがあったのだ。
その眼は、僕が知っている二年前の典さんの目では
なかった。
アーティストの真剣な眼差しで真っ直ぐに
見つめられるというのはとても怖いものなのだな、と
僕は思った。
僕は何故だかよく分からないままニヤついてしまった。
何故ニヤついてしまったのかは、よく分からない。
たぶん、男性に真っ直ぐに見つめられて
真剣にプロポーズされた時、全ての女性は
きっとこんな気持ちになるのだろう、と僕は思った。
何故だかよく分からないがニヤついてしまう。

意味なくニヤついている僕の表情から
典さんはインスピレーションを受けたのか
構えていた筆を一気に和紙の上に走らせた。

(タイトル)理史

志をたかく持ち
進み生け

理史が「良い」と感じる方へ。

それで良し、
それで良し、と
理史ほめながら。

2003.9.12  典(のり)


うーん、グレイトな詩です。
言葉屋詩人のりさんが
僕だけのために書いてくれた詩です。
古風な和紙に墨汁でしたためられた
世界に一つしかない宝物が完成しました。

感激した僕は、典さんに仙台定住を勧めてみました。
でも典さんは、放浪するのがとても好きなので
たぶん定住はしないのでしょう。
またしばらくしたら仙台を発って
どこかのストリートで詩を書くのだと思います。
そしていつかまた仙台のアーケードで見かけたら
僕は、お帰り、と声をかける。
そういう関係も悪くないような気がします。

さて、そんな言葉屋詩人のりさんとは
いかなる人物なのか。


言葉屋詩人のり、公式プロフィール

1999年道を歩く人を見て、やりたいことやってんの? と疑問を抱き、
言葉を書き始める。
この年の秋、大阪→北海道ヒッチハイクツアーを決行。
そのツアーの中で、書く楽しさを知り、2000年の春に
大阪に戻る。
その頃からお客さんを見て言葉を書き始める。
2001年春に上京、路上やライブペイントなど
渋谷を中心に活動を行う。
2002年、東京の他に仙台、長野など地方を巡り、活動範囲を広げる。
2003年、4年の年月が過ぎ、書き上げた作品の数、
およそ35000枚。
ただ今、全国を視野にいれ活動中。
自分自身のやりたい事を積極的にやっていきたいと
思い駆けていきます。


典さんは、もうしばらく仙台にいるそうなので
アーケードで典さんを見かけたら
みなさん一筆書いてもらってはいかがでしょう。
あなただけへの一言を、古風な和紙に墨汁でしたためて
くれます。



-言葉屋詩人のりさん-