2003年11月1日土曜日

土地の持つ力(2) 巣鴨プリズン 2003.11.X 初出

巣鴨プリズン。

終戦直後、日本のA級戦犯を収容されていたとされる
巣鴨プリズン。
巣鴨プリズン、とは、巣鴨拘置所をGHQが接収し
戦犯、の収容所としたものらしいです。
もちろん現在は存在しないようですが
僕はここにも独特の、土地の持つ力、が
存在したのではないか、と思ってしまいます。
そこに住むだけで感化されてしまうような何か。

終戦後の日本が土建国家として急成長する過程において
頭角を現していった、大物~族議員、であるとか
~界のドン、と呼ばれるような人達のルーツを
たどっていくと、結構、巣鴨プリズン、に
行き着いたりします。

この勢力が国政の舞台に残る限り
公共事業依存型の日本経済、土建国家、は
終わらないのでしょう。
深く調べたわけではないので推測は危険ですが
僕はたぶん、巣鴨プリズン、において、GHQ、と
何か、取引き、があったような気がします。
こうした、陰謀史観、を始めるときりがないのですが
当時の世界情勢においては、アメリカ側に
日本を反共(反共産主義)の防波堤にしたい、という
思惑があっただろうと考えられるので
取引きがなかった、とは言えないような気がするのです。
日米安保を決定づけた昭和の怪物、岸信介首相が
終戦後、共産主義思想に染まっていた優秀な若者達を
転向、させて、革新官僚、として採用したという
話はよく聞きます。
現在のイラクで旧バース党に関わっていた
人物を収容している施設があるとしたら
当然アメリカは、取引き、すると思うのですが
どうでしょう。
だって、イラクで最も優秀なのは
戦犯、とされるその人達なのだから。

なんだか危ない話になってきましたが
今回の衆議院選挙においては、そういった危ない話に
繋がりそうな、族議員、とされる人達が引退も含めて
相当落選したようなので、日本はどうしようもない
土建国家体質、から抜け出せるかもしれません。
民意の勝利です。
民主国家でよかったなと思ってしまいます。
少し未来が見えてくるかもしれません。

そもそも不況を、公共事業による有効需要創出で
乗り切ろうとするいわゆる、ケインズ政策、に基づいた
ニューディール的経済政策は、日本社会において
完全に限界を迎えています。

ケインズ政策、ニューディール政策というのは、
アメリカで1929年に始まった大恐慌を、
時のルーズベルト大統領が
なんとか乗り切ろうとして採用した、
ケインズ、という経済学者の理論のもとで行われた
一連の経済政策のことです。
それまでのアダム・スミスに始まる古典派の経済学では
自由放任(レッセ・フェール)的に、
すべてを市場に任せておいて
後は、神の見えざる手、が市場に働くのを待てばよい、と
されていたのに大恐慌でニッチもサッチもいかなくなってしまった。
そこでケインズという学者が、大規模な公共事業で有効需要を
創出するべきだ、と提唱したわけです。

大規模公共事業を政府が行う、という経済政策は
市場に、神の見えざる手、を見る古典派経済学の
見地からすれば、異端、ですが
ルーズベルト大統領が、ケインズの理論に基づいて
行ったニューディール政策で
実際アメリカ経済は、大恐慌から一旦経済を
持ち直してしまいました。
このルーズベルト大統領は、
日本軍の真珠湾攻撃を察知しながら
戦争の大義名分を得るために
わざと真珠湾で自国部隊を撃たせた、と言われる
あのルーズベルト大統領でもあるのですから
経済政策にしても、外交手腕にしても
好悪の判断は別にして、政治家として
大した玉、だった事は間違いありませんね。

少々話が逸れてしまいましたが
現在の日本社会においては
かつてアメリカ経済の大恐慌を救ったという
その、ケインズ的、ニューディール的
大規模公共事業のアプローチは通用しないだろうという
話なのです。

先日、小室直樹氏の、論理の方法(東洋経済)という本を
読んでいてその辺すっきりしたのですが
まず一点、ケインズ自身が、ケインズ政策、を長く行うと
世の中が、社会主義、になってしまうので、短期で
切り上げること、と警告していたとの事です。
それともう一点、ケインズ政策が効力を発揮するためには
役人が清廉潔白で十分に有能でなければならない、という仮説も
紹介されていました。

この二点に照らし合わせると
現在の日本社会では、もうケインズ的、ニューディール的、
大規模公共事業的アプローチでは立ち行かない、という事なのです。
日本は戦後ずっと、護送船団方式、でやってきていて
唯一成功した社会主義国、などと揶揄されるくらいなのだから、
ある意味、50年間ケインズ政策を採用していたようなものです。
日本は先進国の中で最も開業率・起業率とも低い、と
言われていますが、ケインズ政策を短期で切り上げないと
世の中が、社会主義、になってしまいますよ、という
ケインズ自身が指摘する弊害が既に起き始めているわけです。

また二点目の、ケインズ政策が効力を発揮するためには
役人が清廉潔白で優秀である必要がある、という
仮説においても、戦後あまりにも長い間
官僚にとっておいしい、役人天国、的状況が続き過ぎたので、
清廉潔白で十分に有能、とは思えない役人が増えてしまいました。
官僚が公費を飲み食いに使っているらしい、という
官官接待、が、一頃連日のように報道されていたのは
記憶に新しいところです。
それにもう、赤字国債、が膨大になってしまっているので
大規模な公共事業など撃てるわけがありません。
だからどの道、ケインズ的、ニューディール的
大規模公共事業的アプローチの
土建国家体質、は改めるしかないわけです。
僕は建設業界に知人がいるので
あまりこんな事は書きたくないのですが
マクロで見た場合、それが正解だと言えそうです。

道路公団の藤井総裁が、石原伸晃大臣の
聴聞に対し、大物族議員達のイニシャルを
何個か上げてみせてから、死人が出るぞ、などと
揺さぶりをかけていたニュースが先日報道されていましたが、
あ、なるほどな、と僕はその時思いました。
巣鴨プリズン、で何があったかは別にして
50年近く、土建国家、をやっていれば
そういう癒着・弊害は出てくるのです。
まさに、世の中の社会主義化の弊害
役人が清廉潔白でないことによる弊害が
如実に現れているニュースでした。
なるほどな、というよりも、やっぱりな、という
感じが僕はしました。

それというのも、僕はチョコマカと
フットワーク軽く、あちこちに出入りしているので
ある自治体を舞台とした、大物族議員と
元県警トップと役所を巻き込んだ形での
不正、とは言わないまでも
あまりフェアではない関係、ちょっとおいしい関係、を
知っているような気がするからなのです。
官官癒着の利権があるかも、なんていうのは
この社会で2.3年働いてみれば、誰でも分かります。
この国はもう、役人天国、と化しているのです。
族議員のイニシャルを何個か上げてみせて
揺さぶりをかける、という
道路公団の藤井総裁の行為で国民に明らかになったのは
やっぱりそうか、という確信だけだと思います。

そういった公社・公団・役所の職員となって
上に行けば行くほどおいしい思いができる、というような
社会構造にあって、若者達に対してリスクを負って
ベンチャー企業を起こせ、などと注文するのは
無理だと思ってしまいます。
合理的に考えたら、ほとんどの若者は
公務員試験を受けてみよう、となるはずです。

僕の同世代の人には、大学8年生まで
公務員試験を受けているような人がたくさんいます。
それは公務員がそこまでしても元をとれそうな
おいしい仕事、だからだと思います。
公務員になってもあまりおいしくない、という状況になれば、
それらの若者は何かを始めるかもしれないのに
公務員や公社・公団に、最も経済的インセンティブと
社会的ステイタスがあるから
大学8年まで浪人して公務員試験を受ける、という
ような人が増えてしまうわけです。
給料が安くてもいいから、公(おおやけ)の仕事に
携わって人々の役に立ちたい、という人として
素晴らしい人は、今はNPOを起ち上げるような
気がします。

べんちゃあ・すぴりっと、のエッセイにも書きましたが
公務員試験、に代表される、社会が敷いたレール、に
最も経済的インセンティブと社会的ステイタスがある社会では、
仕事も遊びもそつなくこなし、GWには
ユニバーサルスタジオジャパンに行きます、という
ような人が最も、賢い人、とされてしまいます。
そしてリスクを負って何かを始めようとしている人は
世間知らずのバカな人、とされてしまう。

僕は別に読者の方に無茶を進めているわけでは
なくて、経済的インセンティブのつけ方で
人々の意識が変わってしまうのだから
人間というのは本当に面白いな、と思ってみただけです。

昔、というか奈良時代の話ですが
墾田永年私財法、という革命的な法律が施行された
事がありました。
田畑を開墾すればするだけ、自分の永年私財と
なるのだから、当時の農民のモチベーションは
飛躍的に高まったはずです。

現在求められているのは、奈良時代の
墾田永年私財法にあたるような
社会の敷いたレール、に乗っているよりも
ベンチャーを起こした方が特かも、と思わせるような
法律でしょう。

2008年3月までの特例として
資本金1円でも株式会社を設立できる、という
法律が施行されたようですが、墾田永年私財法のラインで考えると、
評価できる法改正のように思ってしまいます。
ちなみに、墾田永年私財法、によって
それ以前の、公地公民、制度は壊れてしまったようです。
現代の官尊民卑から民尊官卑への流れと同じです。

永田町の変人、小泉首相が提唱する、構造改革、と
いうのは、巣鴨プリズン、に繋がる、土建国家、の
権力構造を壊して、墾田永年私財法、を施行します、という
ものかもしれません。
そして、官尊民卑、から、民尊官卑、へ至る。
小泉首相は、自民党をぶっ壊す、とさえ言っています。
族議員に代表される古い自民党は
土建国家の権力構造そのものなのだから
墾田永年私財法、を施行するなら
やはり壊してしまった方がいいと思ってしまいます。
自民党をぶっ壊す、という人が自民党の総裁なのだから
政界再編はもう少し続くかもしれません。

いろんな人がいろんな事を言っているような
気がしますが、僕は今のところ
小泉首相の下で、戦後日本の社会システム
つまり、土建国家、を、一旦解体していくしかないような気がします。
現在は首相や閣僚が代わったからと言って
2,3年で景気が回復する、といった
状況ではないようです。
小泉首相は、向こう3,4年の景気回復はない、と
言っていますが、そういうネガティブな
ことも言ってくれる政治家は
リップサービスばかりの政治家より
信頼できるような気がします。

これまでの自民党の首相は
大丈夫、大丈夫、と国民にリップサービスを
しておいて、実は全然大丈夫じゃない、という人が
多かった。森首相とか。

で、そういった戦後システム、土建国家、の根が
巣鴨プリズン、にあるのではないか、という
話なのです。歴史を変えてしまうような土地の力。
それはインターネットがいくら世界のプレイスレス化を
進めていっても残るような気がします。



-土地の持つ力(2)巣鴨プリズン-



土地の持つ力(3)へ続く

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