2003年11月1日土曜日

想像力を摩滅させるもの(6)オケツ丸出しの現代社会 2003.11.X 初出

日本社会は前回見てきたような、キリスト教的意味での
倫理観は持っていなかったものの、礼儀作法、という
世界に誇れる文化があったような気がします。
たぶん日本人は、長い年月をかけて
自らのうちの、獣性・卑らしさ、つまり、ディオニュソス性、を
覆い隠す手段として、礼儀作法、を発展させてきたのではないかと
思ってしまいます。
その出発点はやはり、自らのうちの、獣性・卑しさ、に対する、
想像力、なのではないか、と。

礼儀正しい人、というのは
心のきれいな人、ではなくて
自らの持つ、卑しさ、を自覚できている人
なのではないかと思ってしまいます。
心のきれいな人、卑しさ、獣性を
全く持たない人は、成人男女には
おそらく一人もいないのではないかと思います。
たぶん、自らの持つ、獣性、卑しさ、を
自覚できている人と、自覚できていない人が
いるだけなのだと思ってしまいます。
自分で、聖人だ、などと名乗ってみせる人の
胡散臭さは、きっとその辺にあるのでしょう。

キリスト教の、キレイゴト、とも取れる
倫理観の下には、ギリシャの悦楽淫蕩の神
ディオニュソス、が隠れているのではないか、という
前回のニーチェの言葉からの推論に照らして考えれば
かつての日本人の礼儀正しさの下にも
やはり、ディオニュソス的な、逸楽淫蕩性、が
隠れていたような気がします。

洋の東西を問わず、人間であれば誰だって
時に血のしたたるサーロインステーキに
かぶりつきたくなる時もあるだろうし
アクロバチックな体位でセックスしたく
なる夜もあるでしょう。
それにどんな高尚な哲学を唱えてみたところで
定期的にふんばって糞(クソ)をしないと
全ての人間は死んでしまうのです。

その点では聖人偉人とて例外ではないでしょう。
キリスト教徒の方は面白くないかも
しれませんが、僕は、イエス・キリストも
たぶん糞をしたと思います。
仏教徒の方は面白くないかもしれませんが
やはりお釈迦様も糞をしたのではないかと
僕は思います。

そうだよ、そうだよ。
人間なんてしょせんみんな糞袋だよ。
しょせん糞袋なんだから
うまいもん食って
じゃんじゃん稼いで
バコバコセックスすればいいじゃないか
と、開き直ってオケツ丸出しになってしまったのが
現代社会であって
結果は見ての通りのように思います。

つまり、礼儀作法も戒めも捨てて
人間の持つ、獣性、ディオニュソス性、を
野放しにしてしまうと
社会は壊れてしまうのではないか、という事です。
昔の、想像力、ある聖人偉人達は
みんなそれを知っていたのではないかと思うわけです。
近代科学がどんどん明らかにしてしまっているように
人間の真実の姿、などは、もしかしたら
たいして綺麗なものではないのかもしれません。

戦後の日本社会は
有史以来初めて、と言っていいくらいの
基地を経由し、肉体性を持ったリアルな異文化として
アメリカ文化、というものと対面したため
それまでの礼儀作法を始めとした
日本社会の嘘っぱちの仮面を
剥ぎ取って見せるのが
文化の潮流、だったような気がします。
嘘っぱちの仮面を剥ぎ取ってみせる、
本音を言ってみせる、というのが、芸、となって
いたような気がします。
北野武さんなどは、そういった文化潮流の中で
どんどん社会の仮面を剥ぎ取ってみせて人気を博し
スターダムになっていった人のように思えますが
北野武さんは、想像力、のある方なので
たぶん今頃、ちょっと壊しすぎたかな、と
罪の意識を感じているかもしれません。
現代では誰もが、本音、を隠さなくなったので
本音を言って見せても、芸、にはならなかったりします。

これからはむしろそういった、破壊、のアプローチよりも、
建設、の時代ではないかと思ってしまいます。
僕は最近、建設的意見、や、正論、を吐いている人を見ると、
なんだか、過激、なことを言っているように感じてしまうのです。

親を大切に思いなさい!
人を殺してはいけません!

なんだか、過激、に、聞こえませんか。

でも、建設、の時代になるのでは、と言っても
昔の、礼儀作法、を復活させるという
方向ではないような気がします。
礼儀作法の、てにおは、というのは
結果に過ぎません。
てにおは、にこだわりすぎた礼儀作法は
礼儀正しすぎてかえって相手に対して失礼な
慇懃無礼、というものです。
なんだか同じことばかり書いているような気がしますが
倫理や礼儀作法の根底にあるのは、きっと
人間のどうしようもない造り、に対する
想像力、なのでしょう。

こんな時、こんなことしたら
相手はどう思うか、

相手は今、何を欲しているのか

今こんなことをするのは
もしかしたら恥ずかしいことなのではないのか

そういった、想像力、が
倫理や礼儀作法を生み出すのではないかと思います。
想像力、を働かせて、どうしようもない造り、を持った
人間の行動を、なんとか品のある行動にしようと
繰り返してきた事が、いつか、礼儀作法、と
なっていくのでしょう。だから、てにおは、は変わっていって当然です。
でも根底にある、想像力、がなくなったらもう終わりでしょう。

村上春樹さんの最新作、海辺のカフカ、では
何度も、想像力、というキーワードが
出ていましたが
絶対的真理などどこにもないこの世界で
獣性、をうちにかかえた人間が
独善に陥いることなく、愚行を減らしていくためには
想像力、をキープしていくしか
ないのではないかと思ってしまいます。
海辺のカフカ、では、日本社会が戦後五十年かけて
なくしたものは、想像力、なのだ、とさえ取れそうな
くらい、想像力、というキーワードが何度も出てきます。
そして村上春樹さんは、海辺のカフカ、の中で
マッカーサー元帥の話題にちょっと触れてみせてから
神社の石をひっくり返してみせて物語を完結させました。
海辺のカフカ、についてはまたいずれまた書きたいと思います。

と、長々と6回に渡って
想像力を摩滅させるもの、をキーワードに
書いてきましたが、人類の、想像力、が
摩滅してきているのは間違いないような気がします。
相手の、痛み、に対する、想像力、があれば
そこまで残酷にはなれないだろう、と思う事件事故が
最近非常に多いです。
そして権力の側も、治安の悪化に対しては、警察官の増員、
裁判件数の増加に対しては、弁護士の増員、と
すべてが対症療法的になってきていて
これもまた、想像力、があまり感じられなかったりします。
それでは、警察国家、へ一直線ですし、税金が増えるばかりです。
根底にあるのは、人心の荒廃、人の劣化
つまり、想像力の摩滅、ではないかと思ってしまいます。

人は城、人は石垣、人は堀、情は見方、仇は敵なり

戦国の名将、武田信玄の言葉です。
立派な城壁よりも、人、が大切だ、という信玄の
教えなのでしょう。実際武田氏は強かった。
日本が半世紀前、敗戦で国土が焼け跡になってしまっても、
奇跡の戦後復興を果たし、高度成長を経て
近代先進国家の仲間入りを果たせたのは
焼け跡にあっても、人、が、劣化していなかったから
ではないでしょうか。
まさに、人は城、人は石垣、人は堀、なのだな
と思ってしまいます。

ひるがえって現代は、どこの官庁も企業も学校も病院も
建物(城)だけは非常に立派ですが
そこに勤めている、人、はどうなのだろう、と
疑問に思ってしまいます。
人は城、人は石垣、人は堀、なのです。

訳の分からない事件ばかりが起きる
現代日本社会でありますが
僕は、想像力、をなんとかキープし
石垣、くらいにはなりたいな、と思うわけです。






-想像力を摩滅させるもの(完)-




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