2003年11月1日土曜日

土地の持つ力(1) 福生 2003.11.X 初出

土地の力。
ある種の土地の力。
これはインターネットがいくら世界のプレイスレス化を
進めていっても残るような気がしてしまいます。

福生。
これは、福生(ふっさ)と読むらしいです。
在日米軍の横田基地がある街です。
ここは村上龍さんのデビュー作、
限りなく透明に近いブルー、のモデルとなった
場所でもあると言われています。
そして最近、卵のなかみ、において
度々登場するブルーハーツという80年代に
一世を風靡したパンクバンドのギタリスト
マーシーこと真島昌利さんも、ここ福生(ふっさ)で
暮らしていたことがあるようです。

知り合いの画家さんの話では、
1960年代、70年代に、この福生(ふっさ)の街で
暮らしていた人達は、商売をするにしても
何をするにしても、とにかくスマートで
アカ抜けていた、との事です。

1960年代、70年代の福生には
いったい何があったのだろう……と
考えてみると、たぶんそこには、日米安保の矛盾や
べトナム反戦運動におけるヒッピー達の
フラワームーブメントであるとか、米兵相手に
演奏される、本物のロック、であるとか
その後の日本の文化状況を決定ずける様々な要素が
凝縮されて存在したのでしょう。

Zilchというバンドのボーカルhideは
神奈川県の横須賀市の出身でしたが
ここも米軍の基地のある街です。
ちなみに小泉首相もhideと同じく
神奈川県横須賀市の出身です。
小泉首相はよく、X-JAPANの曲を
テーマ曲に選びますが、同じ横須賀出身の
hideが、X-JAPANに所属していたのと
無縁ではないような気がします。

こうして見てくると
僕が、おっ、と、反応するのは
政治家にしても、文学者にしても
ミュージシャンにしても
みんな、基地の街に暮らしていた、という共通点があります。
ついでに僕は、沖縄ロックもかなり好きです。

じゃあ基地の街にはいったい何があるのか。
そこには、既に見てきたように、
日米安保の矛盾であるとか
べトナム反戦運動におけるヒッピー達の
フラワームーブメントであるとか
米兵相手に演奏される、本物のロック、であるとかが
むき出しで存在するのでしょう。
そして身近でそういった肉体性を持った、他者、を
見続ける事で、彼らが持ち込む魅力的な文化を吸収する一方で、
じゃあ、日本人として絶対に譲れないものは何なのだろう、とか、
国家って何だろう、とか、人間って何だろう、といった事を
自然に考えるようになるのかもしれません。
そういった作業を繰り返しているうちに
知り合いの画家さんが言っていたように
商売をするにしても、何をするにしても
スマートで、アカ抜けた、存在になっていくのだと
思ってしまいます。

福生(ふっさ)にいた村上龍さんが、
かつて、食、特に、米、に関して面白いことを書いていました。

私達は、アメリカのものを無抵抗に受け入れたが
御飯だけは捨てなかった。
それは米が、日本文化の象徴だからではなく
米がパンよりおいしいからだ
主食が米から小麦に移行してしまった国は
恐らくないと思う。
私達は、おいしいものだけは捨てないのだ。
(村上龍、世紀末を一人歩きするために、講談社)

同じく福生にいた、ブルーハーツのギタリスト
真島昌利さんは、RAW LIFE という
ソロの曲の中で

ド田舎の日本人でも、夜更けには納豆を食う
おっと自慢のTシャツに、醤油がかかっちまったぜ

と歌っていました。
食い物のことなど些細な事だと思われるかも
しれませんが、案外大事で
日本酒考にも書きましたが
その民族の特性は、食物に最も顕著に現れるわけです。
米、納豆、日本酒、は、好むにせよ、嫌悪するにせよ
福生のような基地の街でアメリカ文化を目の当たりにした時
どうしても考えさせられてしまうものなのでしょう。
僕たちはアメリカ人ではないのだから
死ぬまでロックするつもりなら
米・納豆・日本酒、の部分をなんとかしなきゃ
いけないわけです。

以上、福生、のような街に住んでいると
自然とそういった感覚が身につくのだろうなあ、と
いう話でした。

戦後のある時期までの、福生、には
独特の、土地の力、があったのでしょう。
そこに住むだけで自然に感化されてしまう、といった
ある種の土地の力。

そういった、土地の力、は
インターネットがいくら世界のプレイスレス化を
進めていっても残るだろうと思ってしまいます。


-土地の持つ力(1)福生-


土地の持つ力(2)へ続く

https://digifactory-neo.blogspot.com/2003/11/2200311.html



関連
  

  小説とは何か(4)
https://digifactory-neo.blogspot.com/2012/09/4200310.html


限りなく透明に近いブルー (講談社文庫 む 3-1)

世紀末を一人歩きするために (講談社ニューハードカバー)