「僕は、君のこれからの事も考えて
そろそろ二人の関係を見直す時が
来たんじゃないかと思うんだ」
「何それ? 」
「いやだから、君のこれからの事も考えてさ
そろそろ二人の関係を……」
「何、何、何言ってるの?
それってわたしと別れたいってこと? 」
「いや、そうじゃなくて」
「あなた……他に好きな人ができたんでしょ? 」
「何言ってるんだよ、そんな事言ってないじゃないか」
「ううん、きっとそう、顔にそう書いてあるわ
わたしはあなたの事は何でも分かるのよ
他に好きな人ができたんなら、はっきりそう言えば
いいじゃないの……なのに、こんなところに
呼び出したりして」
「おい、何を言ってるんだよ、そんな事言って
ないじゃないか」
「おかしいとは思ってたんだ、前は毎晩電話して
くれたのに、最近では週に一度だけ……
他に好きな人ができたんならできたって
はっきり言いなさいよ! 」
「おい、落ち着けよ、みんなが見てるじゃないか」
「誰が見てたっていいじゃない
それで……今度のお相手はどこの誰なの? 」
「おい、落ち着けってば」
「ううん、やっぱりそうなんだ……この前言ってた
新人の女の子でしょ? 」
「そんなこと言ってないじゃないか」
「分かりました、別れましょ……あなたの部屋の合鍵
ここに置いておくからね、じゃあね、わたしもう帰るから」
「おい、ちょっと待てって、ちょっと待ちなよ」
「じゃあね」
バタン!!
「待ってくれよ、待ってくれよ、待ってくれよ
待ってくれよ、待ってくれよ、待ってくれよ
待ってくれよ、待ってくれよ……」
ドップラー効果……遠ざかる女は、より美しく見える。
大場 理史
-痴情のもつれ(2)ドップラー効果(完)-
芸術論集 文学のプロポ (中公クラシックス)