2003年5月1日木曜日

ぜいたくな悩み 2003.5.X 初出

モノだらけだ。
足の踏み場もないとはこのことか
と、僕は思った。

先日、とある友人宅へお邪魔したところ
部屋中モノだらけで歩く隙間もない状態で
本人は、流行の、片付けられない症候群、だよ
などと頭を掻いていました。

どうしてモノを捨てられない人が
増えているのだろう。
かつて、捨てる技術、という本が
ベストセラーになったような記憶もあるし。

戦後から高度成長期にかけては
大量生産、大量消費の時代だったと言われます。
焼け跡から復興へと向かう過程で
とにかく物資がなく
つくればつくるだけモノが売れた時代が
あったのだそうです。
経済学で言うところの、セイの法則(供給が需要をつくる)が
機能していたのでしょう。
そういう時代は、モノが資産だったわけですね。
モノを大切にしましょう、という標語もありました。
モノを大切にしましょう、と教えられた人達が
片付けられない症候群に陥っているような
気がします。
不要なモノでも、何かの役に立つ気がして捨てられなく
なっているのではないでしょうか。

バブル崩壊が誰の目にも明らかになった
98~2002年(本当は91年に終わっていたらしい)
様々な面で社会に理解できない
事件が起こり始めたころ
モノが豊かになったわりには心が貧しくなった
と、年配の方はよくボヤいていました。
モノが豊かになる事が豊かさの指標だった時代に
精神を形成した人達には、確かにそう見えた
のでしょうが、有名なマズローの欲求段階説によれば
人間の欲求は、ピラミッド状に形成されていて
ある欲求が満たされると、今度は次の段階の欲求を
志向していくものらしいのです(ちなみにピラミッドの
頂上は自己超越です)経済学でいう限界効用逓減の法則と似てますね、一杯目のビールは旨いが、二杯目はそんなに旨くない……
僕はマズローの見方に賛成で、モノが溢れている現在
モノが豊かになって心が貧しくなった、訳ではなく
単にモノは溢れているので、多くの人の欲求段階が
上がり、悩みの質が変化しているのだと思います。

ぜいたくな悩みってやつですね。

~ぜいたくな悩み(完)~


「捨てる!」技術 (宝島社新書)