2003年5月1日木曜日

悪い男にブイブイ言わされ金だけ取られる健気な女 2003.5.X 初出

青葉区木町通りの一角、僕の秘密の居酒屋。
昭和初期を思わせる傾いた木造の建物に、
日焼けしたのれんが出ている。
昔の無頼派の文人はきっと、こういう場所で
ヒロポンをキメていたのだろうな、と僕は
思った。

3Sってスリーサイズのことですか
と聞いた僕は、店主のT氏に怒られた。
3Sとはスリーサイズのことではないらしい。

店主のT氏が言っていたのは
マッカーサー元帥が、かつて戦後日本を
統治する上で布いた3S政策のことだった。
3S(セックス、スポーツ、スクリーン)を
振興させれば、きっと日本人は軟弱になって
反抗しなくなるだろう、と当時の進駐軍首脳部は
考えたらしい。

2003年現在、3S政策は見事に結実しているように
思える。
アメリカ人もビックリする程、性風俗産業は盛んだし
不倫も離婚もウナギのぼり
スポーツでリビドーを昇華しつくし
どうでもいい映画や音楽の娯楽にかまけて
深くものを考えることをしない……と書いてきて
気がついた。
それって結構僕にも思い当たるというか当てはまる。
クワッ! ヤラレタ! 僕もマッカサー元帥の
術中にハマッていたのだ~。
その時店主のT氏はニヤリと笑った。

僕は思った。
アメリカ、というか、アメリカ政府というのは
本当に恐ろしいな、と

最近いろいろな人が書いているが
アメリカ政府の政策というのは
二年先、三年先ではなく
三十年先、五十年先の憂いを絶つために
練られているらしいのだ。
つい最近も、アメリカ政府が日本研究家を集め
日本にかつての急進的なナショナリズム復活の兆しはないか
と、調査させたという話もあった。

僕はなんとなく分かってきた。
戦後五十年の日米関係というのは
日本の片思いで
悪い男にブイブイ言わされ
金だけ取られる健気な女、日本、だったのだ。

昭和初期を思わせる傾いた木造の建物。
店主のT氏は、口元に笑みを浮かべながら
季節外れのおでんを煮ている。