青葉区木町通りの一角、僕の秘密の居酒屋。
昭和初期を思わせる傾いた木造の建物に、
日焼けしたのれんが出ている。
昔の無頼派の文人はきっと、こういう場所で
ヒロポンをキメていたのだろうな、と僕は
思った。
3Sってスリーサイズのことですか
と聞いた僕は、店主のT氏に怒られた。
3Sとはスリーサイズのことではないらしい。
店主のT氏が言っていたのは
マッカーサー元帥が、かつて戦後日本を
統治する上で布いた3S政策のことだった。
3S(セックス、スポーツ、スクリーン)を
振興させれば、きっと日本人は軟弱になって
反抗しなくなるだろう、と当時の進駐軍首脳部は
考えたらしい。
2003年現在、3S政策は見事に結実しているように
思える。
アメリカ人もビックリする程、性風俗産業は盛んだし
不倫も離婚もウナギのぼり
スポーツでリビドーを昇華しつくし
どうでもいい映画や音楽の娯楽にかまけて
深くものを考えることをしない……と書いてきて
気がついた。
それって結構僕にも思い当たるというか当てはまる。
クワッ! ヤラレタ! 僕もマッカサー元帥の
術中にハマッていたのだ~。
その時店主のT氏はニヤリと笑った。
僕は思った。
アメリカ、というか、アメリカ政府というのは
本当に恐ろしいな、と
最近いろいろな人が書いているが
アメリカ政府の政策というのは
二年先、三年先ではなく
三十年先、五十年先の憂いを絶つために
練られているらしいのだ。
つい最近も、アメリカ政府が日本研究家を集め
日本にかつての急進的なナショナリズム復活の兆しはないか
と、調査させたという話もあった。
僕はなんとなく分かってきた。
戦後五十年の日米関係というのは
日本の片思いで
悪い男にブイブイ言わされ
金だけ取られる健気な女、日本、だったのだ。
昭和初期を思わせる傾いた木造の建物。
店主のT氏は、口元に笑みを浮かべながら
季節外れのおでんを煮ている。