2003年10月1日水曜日

皆殺しのメロディー(2) 2003.10.X 初出

もうだいぶ昔の話のように思えてしまいますが
アフガニスタンのタリバン政権による
バーミヤンの大仏破壊を
多くの日本人は、先進国、の一員として非難したわけですが
果たして日本人はタリバン政権を非難できるのであろうか、と
僕はまず言いたいわけであります。

タリバンがバーミヤンの大仏を破壊したのは
アメリカを中心とした、先進国、の圧力を受けてのことなのではないか、と
僕は思うわけであります。
誤解されると困りますが、僕はビン・ラディン氏を匿ったとされる
タリバン政権を擁護しているというわけではありません。
ただ、イスラム原理主義タリバンによる大仏破壊には
日本人が明治期に、西洋先進国の圧力に
対抗して国家神道を築くために行った
廃仏毀釈(仏教を捨てる)と同じ文脈が
隠れているのではないか、という事を言いたいわけであります。

そもそもアフガニスタンという国は
冷戦期にソビエト連邦の侵攻を受けて
一度ズタズタにされてしまった国なのであります。
そして当然ながら当時ソビエト連邦と対立していた
アメリカ政府がアフガニスタンの側を援助したため
この時にビン・ラディン氏が育ってしまったのです。
いわばイスラム原理主義は、東西冷戦、という
大国の都合で芽生えてしまったのです。

そしてソビエト連邦が崩壊した冷戦終了後
急速に一極主義的傾向を強め始めたアメリカ政府が
今度は自分で育てたようなものである
イスラム原理主義を叩くと称してアフガニスタンに
攻撃を仕掛けたわけです。
本当に世界を支配しているのは、力だけなのだろうか?
おお神よ、と、僕は祈りを捧げてしまいたくなりますが
古くはシルクロードの中継点として栄えた麗しのアフガニスタンは、
ソビエト連邦の侵攻以来、大国の都合で何度もズタズタにされた挙句、
暴行・略奪溢れる無法地帯と化してしまっているわけです。

そういった複雑な事情を抱えているアフガニスタンに
果たしてイスラム原理主義タリバン以外に
秩序を回復できる勢力があったのだろうか、という視点は、
議論の際、絶対必要だと僕は思うのですが、どうでしょう。
僕はタリバン政権を擁護する危険人物なのでしょうか。

日本のマスコミは、世界遺産を破壊するような野蛮な
タリバン政権が、正義の味方、アメリカ政府によって転覆され、
女性がブルカを被らなくてもよくなりました、とか、
凧揚げが再開しました、とか、映画が観れるようになりました、という
視点のニュースしか発信しません。
でもたぶん、アフガニスタンの郡部は、タリバン登場以前の
略奪・暴行・賄賂が横行する無政府状態に戻ってしまったはずです。
タリバンは決して賄賂を受け取らなかった、と言いますし、
ノーパンシャブシャブなどとは無縁の
ボロボロの事務所で必死に行政を行っていたと言われます。

とりあえずの安定を確保するために
宗教が一つのよりどころとされるのは
どの国でも事情は同じなのではないか、と僕は思います。
日本もかつて、廃仏毀釈、によって、国家神道、を打ち立て
西洋に対抗できる近代社会を築こうとした歴史が
あることは既にみてきました。
その時に明治政府の役人主導で
国宝級の仏像・観音像、及び神社が、かなり破壊されたわけです。
そういった歴史を持つ国に住む者として僕は
単純に、バーミヤンの大仏破壊は野蛮だ、と
非難する事はできません。

僕はアメリカの言い分もよく分かりますが
近代化して自由化・民主化していくには
プロセスがあるはずです。
無政府状態にある場所に
いきなり自由で民主的な理想的な近代国家を作れ、という
アメリカのロジックは無理があるのではないか、と思うわけです。
アメリカ政府は近代化途上にあってなんとか宗教を
より所として安定を保っている国に対して
民主的ではない、と言って攻撃をしたり
独裁政権によってなんとか安定を保っている国に
対して、民主的ではない、と言って攻撃を加えたりします。
確かに僕も民主化・自由化は大切だと思います。
僕も、卵のなかみ、を自由で民主的な近代社会の恩恵に
さずかって書いているわけです。

でもしつこいようですが、近代化にはプロセスがあるのであって、
その過程にある国に対して、魅力的な民生品を送り込んで
次第に自由化・民主化させていくというのではなく、
その政権をいきなり武力攻撃で崩壊させて
自分達に都合のよい人物達による、民主的政権、を
成立させようというのは、本当にその国に住む人達のことを
考えているとは思えません。
本当は自国で余っている武器を
使ってみたいだけなのだろう? と
勘ぐられても仕方がないと思います。

第一タリバン政権が匿っているとされていたビン・ラディン氏も
まだ見つかっていないという話です。
アフガニスタン攻撃の大義名分は
いったいどこへ行ってしまったのでしょう。
そして息つく間もなく、今度はイラクの
フセイン政権を崩壊させる。
次の標的はいったいどこなのでしょう。
シリアなのでしょうか。
北朝鮮なのでしょうか。

僕はアメリカ政府に呼びかけたいと思います。

正義はあったのか、バカ
正義は勝ったのか、バカ

前回のエッセイ、ゆりかごから墓場までバカ野郎が
ついて回る、に続き、ブルーハーツという
80年代に一世を風靡したパンクバンドの曲の一節です。
これは、皆殺しのメロディー、という
かなり過激なタイトルの曲の中にある一節です。

我々人類は、バカ
過去現在未来、バカ
正義はあったのか、バカ
正義は勝ったのか、バカ

ブルーハーツが言う通り
きっと我々人類は、バカ、なのでしょう。
我々人類は、過去現在、未来永劫、バカ、なのでしょう。
正義はあったのか、バカ、なのでしょう。
正義は勝ったのか、バカ、なのでしょう。

だからボーカルの甲本ヒロトさんは
繰り返し
繰り返し
繰り返し
歌っていたのだと思います。
皆殺しのメロディーだ、と。

僕はやっぱり、人類の中で最も罪のない存在は
知的障害者、だけなのだと思います。
知的障害者は一般に、バカ、だと思われていますが
たぶん健常者とされる僕達ほど、バカ、ではないのです。
バカ、なのは、きっと健常者とされる僕達の方です。

皆殺しのメロディーだ。
切り裂きジャックを呼んでいる。
マシンガンのリズムだぜ。
皆殺しのメロディーだ。
夜の闇に悲鳴を上げた少年が、今オオカミに
なる、なる、なる、なる、なる、YH!



-皆殺しのメロディー(完)-
すっきりわかる「靖国神社」問題