2003年8月1日金曜日

ニューヨーク大停電のニュースを見て市場万能主義の弊害を思ふ(1) 2003.8.X 初出

ニューヨークが大停電でエライことになっている、と
いうニュースが最近ありました。
近代都市に電力が供給されなくなるというのは
大変な事なのだな、と僕は改めて認識させられました。
近代都市にとって、電気、ガス、水道は
まさにライフラインなのだな、と。
何年か前にエンロンというアメリカの電力会社が
電力の先物買いを行って不正会計を行った挙句
破綻してしまった、という事件がありました。
いわゆるエンロン事件です。
それは電力というライフラインまで市場化してしまう事の危険性を
象徴してあまりある事件でした。
今回のニューヨーク大停電に、そういった電力自由化による弊害が
あるのかないのか、今のところよく分かりませんが、
ナキニシモアラズ、といった感があります。
それで今日はアメリカ主導で進められる市場万能主義の弊害について
考えてみたいな、と思ったわけです。

エンロン事件が起きるまで、つまり90年代後半から
2000年、2001年くらいまでのアメリカ経済には
ニューエコノミー論というのがありました。
IT技術を導入することでアメリカ経済は
景気後退局面のないニューエコノミー体制に
移行したのだ、というやつです。
結局ニューエコノミーはバブルだった、という事は
その後のITバブルの崩壊の過程が証明しています。
日本でもそうでしたが、バブル経済の恐ろしいところは
その渦中にいる時には中々バブルだと気がつかないという事です。
例にもれずニューエコノミー論が盛んで、アメリカ経済が一人勝ちしていた
90年代後半から2000年、2001年の間は、アメリカで採用された方法は
全て素晴らしいのだ、という雰囲気でした。
それはちょうど日本がバブル経済の頂点にあった80年代に
ジャパン・アズ・ナンバーワンという本が売れたり
欧米企業が懸命に、カイゼン、や、カンバンホウシキ、を
学んでいたのとパラレルなのだと思いますが
やはり渦中にいる時は中々その本質が見えない、というのが
バブル経済の恐ろしいところ。
実は僕も本質が見えなくなっていた一人でした。
アメリカ経済がニューエコノミー論でバブルに湧いていた頃
時価会計基準、ストックオプション、
ナスダック・アンド・シリコンバレーのキャピタルゲイン、
グリーンスパン神話……と、何でも市場化するアメリカ経済は素晴らしくて、
護送船団方式の日本の経済システムは全て時代遅れの非効率なものだ、と
考えていました。
それで現内閣の経済財政担当大臣である竹中平蔵氏が書いた、
世界標準で生きられますか(徳間書店)という刺激的なタイトルの本を
買ってきて、フムフム……僕はこのままではとても世界標準で
生きていけそうにないな、平蔵さん助けてくれえ~と
悲鳴を上げていたものです。

で、エンロン事件が起こった。
竹中平蔵氏の提唱する、世界標準、であるべきアメリカ経済において
エンロン事件が起こってしまったのです。
それは、時価会計基準、ストックオプション、
徹底した市場化……などが完全に裏目に出てしまった
象徴的な事件でした。
つまり、電力、という都市のライフラインまで
市場の競争に巻き込み、何ヶ月後の、電力、にまで値段をつけて
先物取引の対象とする。
さらに、ストックオプションと時価会計基準制度のもと
会計事務所を取り込んでインサイダー取引を行い暴利を上げる。
挙句、電力株、という本来安定株であるはずの
エンロン株を信用して運用資金として取り込んでいた
年金制度などが連鎖的に大打撃を受け、多くの善良な市民の生活設計が
壊されてしまった。
アメリカ主導の、世界標準、の脆さが露わになってしまい、
市場万能主義者はみんな沈黙してしまうような大事件でした。
なんでもかんでも市場化して
電気やガスや水道のライフラインまで投機の対象にしてしまうとこうなるよ、
という事件だったような気がします。

エンロン事件を知った時、僕はしばらく呆然となってしまった事を覚えています。
竹中平蔵氏の、世界標準で生きられますか、という刺激的なタイトルの本を
読んで、これからは僕も、世界標準、に対応できる人間にならなくては、と
脳内のリストラに励んでいたのに
その、世界標準、の、標準、であるべきアメリカ経済の
根幹がコケてしまったのです。僕は凹みました。
僕が凹んだくらいだから
エンロン事件を知った竹中平蔵氏は、もっと凹んだはずです。
でも大臣たるもの人前で凹んでいる姿を見せてはいけない。
でも胸中ではかなり凹んでいる。
最近の竹中平蔵経済財政担当大臣の発言の切れの悪さは
その辺にあるのかな、と思ったりします。



ニューヨーク大停電のニュースを見て
市場万能主義の弊害を思ふ(2)へ続く
https://digifactory-neo.blogspot.com/2003/08/220038.html