2003年7月1日火曜日

石の話 2003.7.X 初出

スタンリー・キューブリック監督の映画
2001年宇宙の旅では、人類が種として進化を
迎えるときに必ずモノリスと呼ばれる
黒石版が登場します。
失われたアークとかモーゼの石版とかが
モデルなのでしょうが、本当に西洋人は
そういう話が好きだなあ、と思ってしまいます。
実は僕も相当好きです。

いったい人類にとって石とは何なのだろう。

最近村上春樹さんの新作
海辺のカフカ、を読んだのですが
(大ヒットしているので読まれた方も
多いかと思います)これも石の話です。
狂い始めた世界が、神社で拾ってきた石を
ひっくり返す事で正常に戻り、物語は
完結します。
神社と石、村上春樹さんは何を伝えようと
しているのだろう、と僕は勘ぐってみました。

折口信夫という国学者の、古代研究、という本の中に
石が成長する話について言及している箇所があります。
それによると
拾ってきた石が家に帰り着くまでに
大きくなってしまった話や
祠に祭った石が一晩で大きくなって
祠を突き破ったという話が
数限りなく古代日本にはあったのだそうです。

吉本隆明さん(吉本ばななさんのお父さん)によれば
日本の神社には元々社殿などなくて
石や木を御神体として祭り、そこに鳥居を立てていただけだった、との事。

神社と石、村上春樹さんは何を伝えようと
しているのだろう。

僕自身も神道に興味があって
創立は定かでなく西暦806年に再建された、という
結構な由緒ある神社に行った事があるのですが
その神社で

静かなる
日のさす苔にうずまりて
平たき石は
朝(より?)乾く

という詩が刻まれた石碑を見ました。
これも神社と石です。
黒江太郎という斉藤茂吉と交流のあった
文人が残したものらしいのですが
神社と石、そして苔。
僕は何かに似てるなあ、とその石碑を
目にした時思ったのですが
それは何かと論争の耐えない日本の国歌、君が代、で
した。

君が代は
千代に八千代に
さざれ石の巌となりて
苔のむすまで

いったい神社と石というのは日本人にとって
何なのだろう。
そして人類にとって石とは何なのだろう。
神、人、石。

海辺のカフカ、では、神社で拾ってきた石を
ひっくり返すことで世界が正常に戻ります。
村上春樹さんは何を伝えようとしているのだろう。
僕は勘ぐっています。
ある種の石には人間の精神に影響を与える力が
あるという事なのだろうか。
女の人は総じて、この石を持っていると
恋愛運が上がります、とか
あの石を持つと金銭運がつきます、という話が
好きですが、ああいった話もまんざら嘘でもないと
いう事なのだろうか。

新聞などで最近の社会面の事件を見ていると
あまりにも異常で、あまりにも殺伐としていて
僕は近くの神社から石を拾ってきて
ひっくり返せば全てが解決し
世界が正常に戻るのかな、などと妄想してしまいます。
神社と石。
人類と石。
神、人、石。
石って何だ?


-石の話-

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

古代研究〈1〉祭りの発生 (中公クラシックス)

古代研究〈2〉祝詞の発生 (中公クラシックス)

古代研究〈3〉国文学の発生 (中公クラシックス)

超戦争論 上

超戦争論 下