2003年7月1日火曜日

仙台フォーラム 2003.7.X 初出

前回は黒澤映画を30本通しで観る企画の
話だったのですが
考えてみればレンタルビデオ店が
なかった時代には
そんな企画も成り立たなかったわけで
レンタルビデオ店の存在は大きいです。

昔は封切られて興行が終わってしまえば
後はどんな名画でも
それこそ名画座のようなところでしか
観れなかった。
それがビデオやDVDのおかげで
いつでも古い映画が観れる。

黒澤体験以来、僕は古い映画にどっぷりはまって
しまって、レンタルビデオ店を利用して小津安次郎とか
チャップリンとかヘプバーンのローマの休日とかを
次々観ていきました。若いっていいですね。

そういった昔の映画にはほんのりとした品があります。
おそらくそれは価値観の相対化が今ほど激しくなくて
人間の倫理観に信頼がおかれていたため、なのだと
思います。
それに作り手が観客を信頼しているので
まわりくどい説明がない。
それで一つ一つのカットに
メッセージが凝縮された形で
つまっているので、観た後に自分の中の文化のメモリーが
グワッと上昇した気持ちになる。

それは結構重要な事で
現代のように人々の価値観が相対化してしまって
人間の倫理観などたかが知れたものだ、と
みんな諦めの入ったペシミズムに染まって
いる時代には、ピュアでハートフルな作品、というのは
世間知らずなお子様作品、となってしまいます。
それに作り手が観客を信頼できない時代なので
派手なアクションシーンや
暴力やセックスを使ってハラハラさせないと
二時間、三時間引っ張れなくなってしまっている。
人間が面白いと感じる感覚は変わらないかも、と書いた
前回のエッセイと矛盾してますが
僕はもうそういった脂ぎったサーロインステーキの
ような現代映画に食傷気味だったのです。

それで脂ぎったサーロインステーキでなく
滋味に肥えてかつ消化によい懐石料理のような
モノクロ映画を映画館で観てみたいな、と
思っていたら、これができてしまったのです。
なんと僕の家の近所に。仙台フォーラムが。

青葉区木町通りにある
仙台フォーラム。
ここで上映される映画のセレクトは
ほんと渋くかつツボを心得たもので
僕はあまりにもツボにはまるので
会員になってしまいました。
ちなみに会員になると
なんと1000円で映画が観れます。
僕はあまりにも嬉しくて
仙台フォーラムで一日に三本映画を
観たことがあります。阿保ですね。

それで多くの批評家が映画史上ナンバーワンに
あげる、幻の名画、天井桟敷の人々、を
僕は観てしまったのです。
仙台フォーラムで、家の近所の映画館で。
仙台は本当に素晴らしい街だ。

天井桟敷の人々、これはぜったい観ておいて損はないです。
映画とは何か、芸術とは何か、というメッセージが
まわりくどい説明なしに描写されていて
男とは何か、女とは何か、結婚とは何か、恋愛とは何か
都市とは何か、犯罪とは何か、権力とは何か、
酒とは何か……etc.つまり近代社会に生きる
人間の営みが全てそこにある、と書いて
くると何か難解な映画なのかな、と思われるかもしれませんが、
そういったテーマがスタイリッシュに描かれていて、
人間ってちょっと哀しいけどプリティーだな、と思わせられます。
プリティーだな、と。
ドイツ軍政下のパリで取られた映画なのですが
占領されている時にこんな映画を撮ってしまうのだから
フランス人ってのはやっぱりプリティーだな、と僕は思ってしまいました。
ついで仙台フォーラムもプリティーだな、と。
ついでに仙台フォーラムのある仙台もプリティーだな、と思いました。

郊外型の大型映画館が出来てから
学生の頃通っていた中心部の映画館がどんどん
なくなっていって僕的はちょっと寂しいのですが
仙台フォーラムはそういった流れとはまた
ちょっと違ったものがあります。
仙台で活動しているいろいろな団体の
フライヤーとかパンフとかが置かれたりしていて
地域の文化活動の交流地点にもなっているようです。
そういうパンフを観ているだけでも楽しいですし
かつての、名画座、とかにありがちな
ハードコアな雰囲気もないので
デートスポットとしても使えるかもしれません。

みなさん今度の週末はぜひ、仙台フォーラムへ。