2003年6月1日日曜日

♂♀ 生・性・聖 2003.6.X 初出

更年期のせいでしょうか
男性も女性も、六十歳を過ぎたあたりから
独特の品が出てくる事があります。
いつまでも脂ぎっている人もいますが……。

中年のおっちゃんやおばちゃんは
どことなく厭らしい感じがしても
老年に入ると品が出てきます。

僕は人間という存在を、生と性と聖という
三つのセイで捉えようと努力していた事が
ありました。

それで、更年期を過ぎると、三つのセイのうち
性が抜けて、生と聖だけになり
品が出てくるのではないかと考えたわけです。

生と聖だけの、赤ん坊や思春期前の少年少女
それと老年の人には罪がないような気がするし
それらに該当する人を攻撃すると
社会的に非難されます。

おそらく人間にとって、性が様々な罪を
作り出すマグマなのだと無意識に
みんな自覚しているのだと思います。
罪作りな女、という言葉もあります。

赤ん坊や思春期前の少年少女、或いは老年の人が
革命を起こす、というケースはあまり考えられません。
ベビーブーマー世代が成人を迎えた頃
世界中で学生運動が盛んになったそうですが
それも性のマグマがある時点で強大になり
社会を変革するパワーとなって噴出した
と、捉える事もできます。
そして、生と性と聖、三つのセイの関係が
宗教を生み出してきたようにも思います。
かつてキリスト教の一派が、子供ができたら
去勢する、という教義を掲げた事があったらしく
それは罪の源泉である性を絶って
聖に近づこうとする文脈が背後に見られます。
社会から活力が奪われる事を恐れた時の政府が
その宗派を弾圧したそうですが
弾圧した政府の側も、社会の活力が性から来ている
と無意識に知っていたのでしょう。

確かそれはロシアだったと思います。
ロシアは変な宗教が出てくる国で
一応ロシア正教会という国教にちかいものが
あるらしいのですが
怪僧ラスプーチンという大酒飲みで女好き、という
近代の常識ではちょっと理解し難い宗教家が
出てきたり、最近ではアレフ(旧オウム真理教)が
信者を増やしたり、或いは神の問題に取り組んだ
世界的文豪ドストエフスキーを輩出したり、と
宗教的な土壌を持っているようです。

閑話休題―。
おそらく人間にとって
生・性・聖の三つのセイのうち
性の部分が社会的活力も罪も作り出す源泉である事は
間違いないように思います。
フロイトという学者のエロスとタナトス論では
性の本能と死の本能は表裏一体のものであると
されています。違ったかな?
つまり性が戦争やケンカや犯罪を生む。違ったかな?
フロイトは性にとらわれ過ぎている、という
批判がなされる事もありますが
ある面では真実を語っているように僕は思います。
女人禁制の高野山で男色が生まれたり
妻帯を許されないキリスト教の牧師が少年愛に
走ったりするのは、フロイトの理論によれば
性を絶って聖に至ろうとしたのに
聖に至れず、別の形で噴出してしまって
いる例と言えます。

前述のラスプーチンのように
大酒を飲んで性にまみれて
聖に近づいていこうとする宗教家もいますが
いずれにせよ人間は
造物主によって生・性・聖の三つの
セイの中で踊らされているような気がします。

僕の考えでは、性を絶つのも、性にまみれるのも
きっと飛ぶための手段に過ぎなくて
飛んで何処に至るのか、と言えば
飛んで生という枠組みを超えて
聖に近づくのが宗教の原型なのではないかと思います。
聖につらなるエクスタシー(脱自)体験は
きっと並みのセックスなど話にならないくらいの
快感があるはずです。
何やら危ない話になってきましたが
宗教とは本来そういう人間が持つ危険な面を
上手く処理し、人々に安らぎを与える機能で
あるように思います。
人間の生を超越した聖という概念を設定する事で
争いや痴情のもつれの絶えない生と性の
世界で傷ついた人々を救うもの……。
若い頃はギラギラしていたと言われる
作家の瀬戸内晴美さんが
出家して尼僧となり慕われている姿を見ると
宗教本来の姿を見るような気がします。
(瀬戸内さんの本はあまり読んだ事がないので
決め付ける事はできませんが)

オウム真理教は、薬物によって
宗教体験を引き起こした事もあった
ようです。
ですが、おそらく性を絶ったり
性にまみれたりしてエクスタシー(脱自)体験に
近づいていく道程の中での試行錯誤にも
何らかの価値がある、と僕は考えているので
薬物を使った安易な宗教体験は
僕的にはあまり評価できません。
我慢して我慢して、ついに来る脱自体験だからこそ
意味があるように思います。

LSDを使用すると人為的に
宗教体験を引き起こせる、とも言われていて
体験者に話を聞くと
その時は天才になったような気がするけど
薬の効果が切れるとビジョンは
消えてしまう、そうです。

今日はとりとめのない話になってしまいましたが
生と性と聖、そしてその土地の風土。
自然と人間のかかわり、を、上手く処理して
提出できた宗教が、キリスト教、イスラム教
仏教、と、世界宗教たりえているような気がします。
そういった中で、僕は最近神道に注目しているのですが
神道に関係した凄い小説を書けたらいいな、と思って
います。
ついでに今日は、瀬戸内晴美さん、寂聴先生の凄さも
あらためて確認しました。


-♂♀ 生・性・聖-


ラスプーチン―その虚像と実像