2003年6月1日日曜日

Ⅴ秘密結社の合言葉 結局夏目漱石に行きついた 2003.6.X 初出

・ゲセルシャフト(利益社会)ばかりが発展し
 ゲマインシャフト(共同社会)がどんどん失われていく中で
 どうすればゲマインシャフトを取り戻せるのか……と
 考えてきた僕は、結局夏目漱石に行きついた


よく年配の方々が、日本も欧米のような冷たい社会
になってしまっていいのか、と嘆くことがあります。
それはゲマインシャフト(共同社会)をどんどんなくして、
ゲセルシャフト(利益社会)ばかりの世界になってしまってよいのか、と
翻訳する事ができます。

本来、近代化して資本主義化していく、というのは
ゲマインシャフト(共同社会)を削って
ゲセルシャフト(利益社会)に
置き換えていくという行為だ、とも言えるかもしれません。

ならどうして近代化を達成したはずの
先進資本主義国日本で
未だに、欧米のような冷たい社会になって
しまっていいのか、という議論が出てくるかというと
それは先に見てきたように、日本は本当の
意味で近代化、資本主義化していなかったからだ、と言えます。
唯一成功した社会主義国、と揶揄されるように
ゲマインシャフト(共同社会)を失うことなく
ゲセルシャフト(利益社会)を発展させてきた。
その代表例が家族的企業経営だったのでしょう。
そういった戦後のシステムが
九十年代の失われた十年を経て
98~2002頃には、誰の目にも限界であることが見えてきた。

本当の意味で血も涙もない資本主義が走り始めてしまった現在
ゲセルシャフト(利益社会)の論理ばかりが幅をきかせて
ゲマインシャフト(共同社会)の部分はどんどん失われていく。
年配の方々は、そういった様子を見ていて
日本も欧米のような冷たい社会になってしまっていいのか、と嘆くのでしょう。
でも僕はまだ年配の方ではないので
嘆いてばかりもいられません。

ではどういった形でこれからの社会に
かつて地域社会や世間がもっていた暖かい部分を取り戻していくのか、という課題が
出てきます。

一人暮らしの老人と話をしたり
近所の子供達と野球をしたりしても
はっきり言って一文の得にもなりませんが
近代化の過程や近代以前には
そういった行為が自然に地域社会で行われていて
無償のセーフティーネットとして機能していたはずです。

誰も一文の特にもならない事などしない。
効率化を旨とする近代社会、資本主義社会にあっては
当然の選択です。
そんな事をしているのだったら
TOEFLやMBAの勉強でもした方がいい、と
なります。

そこでNPO(民間非営利団体)の出番となるのでしょうか
NPOはボランティアとは違って有償のサービスも
行う場合もあるとの事です。
最近では大手企業社員の中にもNPOに関わる
人が増えているという話です。
それは家族的企業経営の時代が終わって
企業が単なる利益追求集団であることが
明らかになってしまったこととも関係しているように思います。
近代化過程や近代以前には
愛情や誠意、義理・人情で賄われていた
部分をなんとか補っていく次善の策としては
NPOがベストであるようにも思います。

ただ僕は、NPOを起ち上げて役所から
金を取るんだ、と企んでいる人に会った事が
あるので、NPOが全て素晴らしいとは言えません。
内申書にボランティア歴を書くために
ボランティア活動をしている高校生の
話などを聞いても首をかしげてしまいます。
本当に人間というやつは……と。

以上長々とゲセルシャフトとゲマインシャフトという
概念を使って考察してきましたが
近代社会、資本主義社会の矛盾を考察していくと
何故かいつも夏目漱石の言葉に行きついてしまいます。
知に働けば角が立ち
情にさおせば流される
意地を通せば窮屈だ
まことに人の世は住みにくい

人の世に答えなどないのかもしれません。


秘密結社の合言葉(完)